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切り抜き詳細

発行日時
2012-8-9 10:31
見出し
おもい出ひとつ
リンクURL
http://tanba.jp/modules/column/index.php?page=article&storyid=3262 おもい出ひとつへの外部リンク
記事詳細
 先日知人と呑んでいた。 ふとしたことから、 子ども時代の話を何歳の頃から覚えているかという話になり、 自然に母の思い出話になっていった。 40歳代前後の集まりだったが、 今の弱ってきた母と、 昔の健康だった頃の母を重ね合わせながらの昔語りとなった。  幼い頃、 三田のせいもん払いに連れて行ってもらうのを毎年楽しみにしていたという友人は、 ある年のこと、 帰り際に目についた黄色いスリッパがどうしても欲しくなり、 滅多にしないことだったがそのときはめずらしく泣いてねだった。 母は困った顔だったが、 結局、 帰りの電車賃をけずって買ってくれ、 長い道のりを母と手をつなぎながら歩いて帰ったと話し、 彼女は 「やだ、 泣けてきた」 と笑いながら涙をぬぐっていた。 現在、 彼女の母は、 すっかり体が弱り、 入退院を繰り返している。  仕事でいつも忙しい母に体の調子が悪いと言えず、 治るのをじっと我慢しているうちに病院に行かないのが習い性になってしまったと、 もう一人の彼女は笑っていた。 その彼女の母は20年前に鬼籍に入っている。  単身赴任の父を訪ねたときに、 汽船に忘れ物を取りに行った母を、 雑踏の中でじっと待っていた3歳の頃の自分を思い出し、 すでに一家の父である彼は、 子どもの顔をして心細そうに笑った。  皆、 問わず語りに語る母の思い出話は、 なじみの自分だけの宝物をそっと取り出すように、 しみじみと優しい声になる。 夜空に朧月がにじんで、 思い出が少しさみしげな夜であった。  (土性里花・グループPEN代表)