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切り抜き詳細

発行日時
2017-7-20 9:06
見出し
水の思い出
リンクURL
http://tanba.jp/modules/column/index.php?page=article&storyid=5058 水の思い出への外部リンク
記事詳細
 水が輝く季節になると思い出す。私は5歳だった。目の前に広がる満々と水を湛える大きな海。学生時代、水泳選手だった父が、その波立つ海に1人で入っていくのが怖くて心細くて、一緒に行くと駄々をこねた。そんな私を父が小脇に抱えて泳ぎだし、塩辛い海の水が何度も顔にかかり、思うように息ができなくて苦しく、視界を満たすのは揺れる灰色の水だけだったことを。  もうひとつは、小学生の時の記憶。その頃、スイミングスクールの選手コースに所属していた私は、毎日一番遅い時間に練習していた。昼間は一般開放される50㍍プールが私たちの練習場所だった。夜のプールは昼間の喧噪が幻のように黒い水面に静かな月を映していた。何度も何度もターンを繰り返す50㍍は、どれだけ水をかいても永遠に終わりがないように思えた。クロールのキック音が消える平泳ぎになると、開いたり閉じたりする手足から、盛り上がった静かな波がゆっくりと広がって青い月を崩しながら水の上を滑り、なおいっそう静かになった。  ある日、ひとりの少年が昼間の賑やかな水の底で沈んでいるのが見つかった。それでも練習は続く。変わらず夜を映す水は美しかったが、少年が沈んでいた上を通るときは、ひっそりと静かな背中が見えるようで、どんなに疲れていても、手と足が速くなった。  いつの間にか水と離れて久しいが、盛夏になると思い出す。名前も知らない少年と長く暗い水の連なりと、若い父のたくましい腕と。  (土性里花・グループPEN代表)