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切り抜き詳細

発行日時
2013-11-17 9:23
見出し
井上靖 「敦煌」
リンクURL
http://tanba.jp/modules/column/index.php?page=article&storyid=3690 井上靖 「敦煌」への外部リンク
記事詳細
 先月シルクロードの旅に出る際、 にわかに読んだ井上靖 「敦煌」 の中で強く印象に残ったシーンがある。 敦煌が西夏軍によって陥落する前々夜、 宋の都から流れ流れここまで来ていた主人公の行徳が、 騒然とした街のさる寺で若い僧侶が3人、 膨大な数の経巻を延々と選り分ける作業をしているのを見かける。 ▼ 「何をしているのか」 と問いかけると、 「寺に火がかかった時、 選り分けたものだけを持って逃げる」。 たとえ皆が避難を急ごうと、 これらの経巻を見捨てるわけにはいかぬという理由は、 「これまでに読んだ経巻の数は知れたもの。 読んでいないものがいっぱいある。 俺たちは読みたいのだ」。 この言葉に行徳は身体中がしびれるのを感じた。 ▼これが、 有名な千仏洞に何万巻もの貴重な経典が以来1千年に渡って生き延びるきっかけとなったという。 創作ながら、 ともあれ何らかの強い意思が働いて、 この人類遺産の消滅が防げたことは確かだろう。 ▼廃墟となって砂に埋もれた故城に立ち、 「悠久の歴史の前で、 個人は何と小さな存在か」 ということを、 つくづく感じた。 さらば人生など刹那的に費やしても同じではないか、 との考えに囚われそうにもなる。▼だが、「まだ読んでいないものがいっぱいある」 と囁かれた時、 あなたならどうする?―作者はそう問いかけているのかも。(E)