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切り抜き詳細
発行日時
2013-6-20 11:26
見出し
豊かな海
リンクURL
http://tanba.jp/modules/column/index.php?page=article&storyid=3557
記事詳細
「たった1年でこんなに大きくなるとは、 驚きです」。 気仙沼市でカキ養殖に従事する菅野一代さんが、 筏 (いかだ) から引き上げたばかりのカキを1つむいて見せて、 声を上げた。 これまで3年かかって成長していたのと同じくらいの大きさという。 ▼震災後、 カキ種 (ホタテ貝殻に植え付けロープで吊るす) が品不足になり、 自ずと密植出来なくなった分、 成長が速まった。 でも、 理由はそればかりではない。 津波が海底のヘドロをさらっていき、 海がリフレッシュされた。 これが大きいのでは、 と菅野さんは言う。 ▼壊滅した陸前高田の市内を案内しながら實吉 (みよし) 義正さんは、 草に覆われた黒い土の山を指して 「あれは後から積んだのではなく、 津波が瓦礫と共に運んできたもの。 最初に押し寄せた波は真っ黒だったと、 皆言っています」 と話した。 成程そういうことか。 ▼南三陸町で語り部をする後藤一磨さんによると、 カキだけでなく、 ワカメもよく育っている。 「何百年ごとに大津波に襲われるのは、 それなりのわけがあるということでしょう」。 ▼漁師たちは先祖代々、 津波に痛めつけられながらも、 決して離れてしまうことなく、 また漁に就いて生きてきた。 豊かな海が健在なればこそである。 三陸地方を回り、 惨状をも柔軟にとらえ直す人たちに、心救われた。(E)