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切り抜き詳細
発行日時
2015-4-2 13:23
見出し
ワンチャンス
リンクURL
http://tanba.jp/modules/column/index.php?page=article&storyid=4199
記事詳細
小学生のイサオは身体が弱く、 学校を休みがちなので成績は悪く、 友達もほとんどいなかった。 運動会はいつもビリで、 応援に来た母に恥をかかせるばかり。 ▼父は船乗り、 母は商売に出かけているので、 毎日一人でインスタントラーメンを作った。 野菜を刻んで入れると結構うまい。 ▼4年の時、 授業参観があり、 家庭科の調理実習だった。 先生が皆の前にキャベツを置いて、 「誰か切れる人?」 と訊いた。 いつも引っ込み思案の自分なのに、 何故かすっと手を上げていた。 他には誰もいない。 ▼先生も友達も、 「えっ、 イサオが?」 と疑わしい眼を向けてきたが、 先生は 「ともかくやって見て」 と包丁を渡してくれた。 野菜入りラーメンを作る時の調子でトントントンと切り刻むうち、 周りから一斉に拍手が沸き起こった。 隅っこにいた母がいつの間にか真ん中に出て来て、 ハンカチで目をぬぐっている。 ▼ 「何の取り柄もないと思っていた自分に 『料理があるんだ』 と気付いたのはこの瞬間。 もしこのワンチャンスがなかったら、 今の私はなかったでしょう」 と話したのは、 5店目のフランス料理店を柏原のたんば黎明れいめい館に開いた 「ル・クロ」 オーナーシェフ、 黒岩功さん。 「修業の頃は 『見返す』 気持をバネにしていたが、 今は 『恩返し』」。 この先生にも、 母にも大変感謝しているという。(E)